Special Interviews
2022.07.04
第2回
水素の影響を共通評価、RD20で国際協力へのカギとなる~フランスCEA-Liten
CEA-Litenの Florence Lefebvre-Joud博士
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水素の影響を共通評価、RD20で国際協力へのカギとなる~フランスCEA-Liten

CEA-Litenの Florence Lefebvre-Joud博士

2019年から始まったRD20(Research and Development for clean energy technologies)に参加しているフランスの国立研究所の一つであるCEA(Alternative Energies and Atomic Energy Commission)-Litenは脱炭素社会に向けたエネルギーの革新を追求する研究所である。CEAはフランス全体の研究や国民へのサービスを司る省庁の一つ。エネルギー変換とデジタルトランスフォーメーション(DX)に対応する研究と革新を達成することをフランス政府から義務付けられている。フランス全土には10もの研究所があり、CEA-Litenはその一つで再生可能エネルギーにフォーカスする。同研究所で再生可能エネルギー研究を指揮するFlorence Lefebvre-Joud博士(写真1)にRD20への方針を聞いた。

写真1
CEA-Litenの Florence Lefebvre-Joud博士
写真2:フランスのCEA研究所
Copyright DroneSavoie/CEA

CEA-Liten(写真2)が扱っている再生可能エネルギーでは、ソーラーセルやソーラーパネル、スマートグリッド、電気自動車、燃料電池、バイオエネルギーなどCO2を減らし循環経済を目指している。そのためのライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)などを行い、エコデザインやリサイクル、材料の消費効率を上げるアディティブ製造(3次元プリンティング)などにも取り組んでいる。再生可能エネルギー技術を実証し、産業界へ技術移転する。

第1回目のRD20から参加、アドバイザリボードに

Lefebvre-Joud博士は、RD20には2019年から科学担当ディレクター代理として参加しており、フランスは日本の産業技術総合研究所と協力してきた。当初、産総研からG20の後にRD20を開催するために協力要請を受けた時、CEA-Litenでは再生可能エネルギーにフォーカスしており、脱炭素社会を目指すことはCEA-Litenの方向とも一致するため、産総研と一緒にRD20を運営することを決めた、という。

同博士は、2019年にはフランスを代表してプレゼンを行い、その後RD20の主催者である産総研とのCEA-Litenの窓口の研究者であることからアドバイザリボードのメンバーになった。

写真3: 第1回RD20会議

2019年のRD20では東京にやってきて、CEA-Litenの活動やこの会議で何をしたいか、イニシアティブをどうとるか、国際協力をどうするかなどについて短い講演を行った。2020年と2021年は新型コロナの影響によりリモート会議になった。共にテクニカルセッションで、CEAからは技術的な内容の講演を2件行った。技術講演の一つでは共著者のJulie Mougin博士が高温での固体酸化物電解質を使用した水素製造について、2021年にはLaurent Antoni博士が脱炭素社会において水素を推進する方針を述べた。Antoni博士は、欧州イニシアティブを運営する立場にあり、標準規格を決め問題を解決することについて述べている。

2022年には、できれば東京で開催され、世界各地からみんな集まって議論することを望むが、特にテクニカルセッションでワークショップを開催したい、とLefebvre-Joud博士は語る。ワークショップのトピックスとして、水素のライフサイクル分析を提案したいという。例えば、エネルギー源としての水素の環境評価の共通測定項目を決め、どのような国でも政府の要件でも互いに共通して使えるようにするためのタスクフォースを作りたいとしている。

この他にトピックスの要望があれば、それも参考にしたいと思うが、まずは水素の特性を測定する共通の評価法を定義し確立したい、という。さらに、CO2のライフサイクル分析も重要だろうし、CO2を収集、使用、保存といった一連のライフサイクルに関するテーマが出てくるかもしれない、と述べている。要はRD20に参加している各国に共通するトピックスを選び、各ギャップやニーズ、シナジーなどを定義する。各国の参加によってコラボできるようにすることが狙いだ。CEA-Litenは、過去2年間で水素に関する研究について講演し、各国も水素に関心があることがわかったから、今年は水素エネルギーの影響を評価する方法を共通にしようと考えている。 共通の評価法ができれば、環境に関するベネフィットなどはすでにわかっているから、水素をエネルギー源にするための問題点を明らかにできる。このために国際的な協力が必要で、CEA-Litenは産総研ゼロエミッション国際共同研究センターの近藤道雄氏とも話し合ってきたという。G20の国々が同じテーブルで話し合うのに適したテーマである。

写真 4固体高分子型燃料電池 (PEMFC) のテストラボ
Copyright D.Guillaudin/CEA

水素エネルギーに関して経済性の議論をあまり見かけないが、Lefebvre-Joud博士は個人的な意見だが、と断ったうえで、水素エネルギーの最大の問題のひとつは経済性だと指摘する。新しい産業インフラストラクチャを作るためには常にコストの問題が付きまとう。石炭や石油、ガスに比べると水素エネルギーはまだ高い。技術的観点から水素エネルギーシステムの耐久性や信頼性も含めて改善し、社会に浸透させるために経済学者や社会学者もまきこむ必要があるという。

水素を作り出すのにCO2が大量に出てしまっては何にもならない。ソーラーや原子力、風力などとのバランスが重要になる。

CEA-Litenは、開発した高温固体酸化電解技術を産業界と合弁企業を作り、技術移転しているという。ポリマー系の技術を使った燃料電池に関しても産業界に移転し、それを利用した燃料電池車をフランス国内で走らせている。

フランスでは水素エネルギーに関しては国を挙げて取り組んでおり、最初の商業化の目標は工業利用だ。工業界では水素から電力を作る用途が主となり、2023年には低炭素の水素を製造する700MWの電力を生み出す計画である。

工業用の次は輸送機器を狙っている。バスやトラックなどの大型商用車、あるいは列車など大型車両を優先する。大型商用車だと水素を充填するステーションを各事業所に設ければよい。燃料電池の乗用車はもっと先になる見込みだ。水素ステーションのフランス全土での設置が必要だからである。2023年には水素ステーションはフランス全体で100カ所に設置する予定である。2028年には850カ所に拡充する計画だ。

乗用車に関して、フランス全土での平均的な走行距離は1日当たり15kmなので、電気自動車が適しており、燃料電池車はもっと長距離のクルマに搭載する。こういった燃料電池車はいずれ商用化されると期待されている。

グリッドバランシングのためのエネルギーのストレージも第3の市場となりうる。水素保存技術ではまだ研究段階のモノもあれば、すでに生産レベルのモノもある。CEA-Litenが現在研究中の面白い技術は、有機液体か、アンモニア(NH3)の形での保存技術である。

ルフェーブル=ジュード博士は、将来は、エネルギーは各国で製造、使用されるのではなく、国際協力に基づいて最適な解決策が見つかるだろうと結論付けた。

セミコンポータル 編集長 津田健二