Special Interviews
2022.09.09
第6回
日本とのコラボで資源大国の価値を高めるオーストラリア
CSIRO 最高責任者のLarry Marshall博士
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日本とのコラボで資源大国の価値を高めるオーストラリア

オーストラリアの2020 年- 2021 年の農業の経済効果は、710 億ドルであり、羊肉や牛肉、小麦の主要輸出国である。

また、鉱物資源も豊富で、鉄鉱石や石炭、ボーキサイトなどを輸出してきた。日本とは全く異なる産業構造であり、科学技術の一大研究組織もある。CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organization)と呼ばれる巨大な研究所は、医療、ヘルスケアからAI、再生可能エネルギーや蓄電池などのグリーンテクノロジー、自然環境、鉱物資源、宇宙、量子など極めて広いテーマを扱っている。CSIROは、2019年から始まったRD20(Research and Development for clean energy technologies)に最初から参加してきた。同研究所の最高責任者であるLarry Marshall博士にRD20への方針を聞いた。

CSIRO 最高責任者のLarry Marshall博士

オーストラリアのCSIRO(シーサイロと発音)は、最初のRD20から参加してきた。当時の安倍首相がホストとして、ソサイエティ5.0というビジョンについて述べ、気候変動とエネルギーの問題について科学で一緒に解決していこうと提案されたことは大変すばらしかった、とMarshall博士は言う。また、RD20に参加してみて情熱を感じ、多くの国の研究リーダーたちが関わってきたワーキンググループやアドバイザリボードにも参加してきたという。

日本とオーストラリアの関わりを活かす

CSIROはRD20において、オーストラリアのミッションと戦略を訴求してきた。例えばCO2排出に対して、水素の利用を日本と共に始め、その生産性の向上や輸送技術などを検討してきた。また、毎年このテーマについての進捗を報告してきた。オーストラリアは近年、干ばつや森林火災、洪水など大規模な気候変動にさらされてきた。日本でも同様の洪水にさらされているが、2021年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎博士は、コンピュータシミュレーションによって、CO2の排出により温暖化が進み気候変動が激しくなることを予言した。

豪州では科学で得られた成果を商用化し、社会や経済的にも恩恵をもたらせた。例えば、スマートグリッドやソーラーシステム、EV用のストレージや充電、ソーラーや風力発電などの再生可能エネルギーとそのストレージなどはその例だ。また、日本の企業とも提携し、環境対策を行ってきた。日豪はさらにもっと共同で価値を高め、一緒にイノベーションを進めていこう、とMarshall博士は言う。

これまでは、政治と行政面からも気候変動や新エネルギー源への対応や、世界規模のパンデミックなどが混じり合った時期だった。RD20では、世界中からみんなが集まって一緒に共同プログラムを実現させたことに意味がある。しかも若い研究者から政治のリーダーまでが集まって、いわばダイバーシティを実感した。オーストラリアはインドと長年パートナーシップを組んできて、さらにそれを延長し、脱カーボンや、エネルギー金属、グリーン製鉄、循環経済などについて取り組むようになった。これを日本が仲介してくれた。

オーストラリア特有の問題もある

CSIROはデジタルのデータサイエンスからロボティクス、製造業、農業、食品、ヘルスケア、エネルギー、水などの市場にも取り組んでおり、日本とも例えば食べ物をベースにした、ガンや糖尿病の予防に向けて大手企業と一緒に取組んでいる。工業でも日本の大手と共に、金属や材料に関する研究や、再生可能エネルギー、水素、ゼロカーボンに向けたシステム制御技術にも取り組んでいる。

もうひとつの課題は、オーストラリアの温室効果ガス総排出量の 10% 近くを占める牛や羊などの家畜からのメタン排出量を削減することだ。これを解決するため、海藻ベースの食品添加物が開発され、牛のゲップによるメタン排出が減少した。 この考え方は、海苔がダイエット食品として優れているということを基にしている。

加えて、発生したガスをどう捕獲し利用するかというCCU(Carbon Capture and Utilization)問題もある。ソリューションとして、一つは捕まえて地中に埋める(貯める)という方法である。もう一つは、CO2を別の物質に変換して利用する方法である。例えば食品や飲料産業では直接CO2を利用しているし、間接的には肥料の原料となる尿素の製造でも利用される。

また、製鉄業では石炭を燃やして酸化鉄を還元するという化学反応を利用してきたが、ここに水素を使って還元するというプロセスを使えば反応温度を150℃程度に下げることができる。石炭などの化石産業は、オーストラリアの第3の産業だから、挑戦的な試みであるが、「グリーン製鉄」を国家プロジェクトとして進めている。

今年のRD20でのトピックス

今年のRD20 では、送電網でのエネルギー管理の導入、水素のバリューチェーン、CCUによる産業界での脱炭素、社会的な風力やソーラーなどの再生可能エネルギー、水素とアンモニア(NH3)との変換技術、などのトピックスがある。水素を高圧で貯蔵して運搬する手はあるが危険を伴うため、アンモニアに変換すればよりリスクが少なく安全に運搬できる。

電気そのものはバッテリに貯められるが、バッテリはエネルギーをストア(充電)するのに時間がかかる。一方、水素は貯蔵できる上、電気に変換することも速い。オーストラリアでは製造業の2/3はガスや化学エネルギーを使う。水素は利用しやすい化学エネルギーといえる。

今年のRD20は、エネルギー変換を科学と技術の両面からサポートすることを訴える。CSIROは全国に広がるさまざまな組織がある。「科学と技術を惹起し、デジタル技術を使って排出を減らしていく。このために日本企業と商業化に関して協業したい。そしてクリーンエネルギーの大きなビジネス分野を一緒に見つけたい」とMarshall博士は述べている。

日本とのコラボにも訴求

かつて、日産自動車とEVおよび充電システムで共同開発したことがある。ここでは実際に製品を開発し、ソーラーパネルによって発電した電力を蓄電池に貯めるというシステムを構築した。その後、RD20につながり、全水素のエネルギーを使うシステムとサプライチェーンの開発で日本の大企業とも協業した。また、材料科学でも三菱と共同研究し、エネルギー転換材料を開発した。

バッテリ開発では日本企業と一緒にリチウムイオン電池の開発にも携わった。リチウム資源はオーストラリアでは豊富にあり、共同開発は大いにその価値を高めた。アノードに使うリチウムに加え、金鉱もオーストラリアにはある。金を抽出するプロセスで諸外国では、有毒なシアン化合物をその処理プロセスで使っているが、CSIROではその有害な化学物質を使わずに金を精製できるようにした。つまり、サステイナブルな環境を作ることと、価値を創出すること、がCSIROの特長といえる。鉱物が豊富なオーストラリアと製造業が強い日本がコラボすることで、これから多くのイノベーションを生むことにつながるだろうとMarshall博士は期待している。

セミコンポータル 編集長 津田健二